【参加者インタビュー】三菱地所・野口さん

2018年度の「Save The 大地の芸術祭」は、2018年9月~12月に実施され、参加者24名。

20社の社会人が集い、芸術祭の運営をしているNPO越後妻有里山協働機構の案内の元、現地フィールドワーク(2回)、東京での中間発表、現地での最終提案まで約3カ月かけて「大地の芸術祭」の課題解決に取り組みました。

プログラムは、地域課題への取組みを通して、主体性、課題設定能力、合意形成能力の3つのコンピテンシー(行動特性)を磨くことを目的に設計されています。

プログラムに参加して、どういった気付きや自身の変化があったのか――。

参加者である三菱地所株式会社の野口さんにお話しを伺いました。

自分でも驚いた「当事者意識」の芽生え

ープログラムに参加した理由を教えてください。

「会社でも研修の案内があると、時間を見つけて参加するようにしています。根が怠惰なので(笑)、研修などを利用して学ぶ機会を作るようにしてきました。今回の研修プログラムは、社外での刺激を受けることで、社会人として成長したいと考えて参加しました。「大地の芸術祭」をテーマに課題解決に取り組むこと。公共性の高い事業に関してじっくり考えること。社外の人との幅広いネットワークを築くこと。そういったプログラムでの経験を、自分の本業にも活かせたらと思いました」

―実際に参加してみて、いかがでしたか。

「まず、参加メンバーの熱量に驚きました。新潟に地縁がある人だったり、大地の芸術祭に思い入れがある人だったり。同世代のメンバーが多かったのですが、こんなにも想いを持って地域や芸術祭のことを考えているんだと、最初はやや圧倒されました。また、芸術祭の実務は現地のNPOが担っていて、プログラムのミッションは『大地の芸術祭を続けていくために、NPOが取り組むべき課題を明示し、解決策を提言せよ』というものだったのですが、NPOの人に『皆さんには、期待していません』と最初にいきなり言われて。せっかくやるんだから、お互い期待しながらやったほうが絶対楽しいのに、と思いました(笑)。本業との両立も含めて、9月の初回フィールドワークが終わった後は、心配も大きかったです」

―その後プログラムが進むにつれて、心境の変化はありましたか。

「参加メンバーの熱量に、最初は驚いたのですが、プログラムで接するうちに、私自身も地域や芸術祭のために、自分には何ができるんだろうという気持ちが高まってきました。そして、参加者の想いが、NPOの方にも届いたのか。「期待していません」というところから始まった関係も、段々と変わってきたんです。想いが通じて、お互いへの信頼感が高まっていく。そんな変化を目の当たりにして、感動しました。11月、中間発表前のグループワークで「この課題は本当に困っているので助けてほしい」とNPOの方から言われたときに、私の中での当事者意識がさらに高まりました。遠く離れた自分に関係ないと思える場所に、当事者意識が生まれるとは当初思っていなかったので驚きました」

野口さんのアンケートに目を向けると、気持ちの変化が伝わってくる。プログラムへの参加意欲を尋ねた質問(7段階評価。1:全くない~7:とてもある)に対して、初回のフィールドワーク終了時には「3」という答えだったのが、第2回フィールドワーク終了時には「5」、中間発表後には「6」になり、参加意欲の高まりが見て取れる。「プログラム終了までの残り1カ月間、チームに対してどのような貢献をする/したいか、改めて教えてください」という中間発表後のアンケートに対しては、「これまで当事者意識が欠けていた部分がありましたが、中間発表では発表者を担うなど、意識が変化してきました。アイデア出しだけではなく、まとめ作業にも主体的に関わり、意味のある提案ができるようチームを勢い付けていきたいです」という回答が返ってきた。

『ディベロッパーとしての自分』に囚われていました

―12月にはいよいよ最終提案でしたね。ただそこでは思わぬ「学び」を得ることに。

「私の提案は、NPOの方に全然響きませんでした。芸術祭のファンづくりの拠点施設を東京に作る提案をしたのですが、発表をしている際中に、『あ、これはヤバい』と思いました。振り返ってみると、プログラム期間中は最初から最後まで『ディベロッパーとしての自分』に囚われていました。大地の芸術祭は、現地の方たちの得意なことを活かしながら運営されていて、『それぞれの得意技を活かせる社会に』という話がNPOの方からありました。提案を考えるにあたっては、私も得意なことを活かしたいと思って“場所づくり”“施設づくり”を軸に考えたのですが、『得意技を披露する』だけではダメなんですよね。『得意技を使って相手の求めるものを作る』という視点が足りなかったと思います。

提案資料の作成でもそうでした。普段会社で働いていると、この階層の人には、これくらいの情報量の資料で、というような、なんとなくのフォーマットの中で作業をしています。プログラムの最終提案でも、会社での思考の枠組みから脱することができませんでした。NPOの方の心を動かすためには、もっと違う提案の形があったんじゃないかと思います。

今までいろんな研修に参加してきましたが、こんなにも思い入れを持ってプログラムに取り組んだのは初めてでした。そして、ガツンと殴られました(笑)。正直ショックでしたし、傷つきましたが、若手から中堅に差し掛かる中で、同じような経験が意外に少なくなっていたことに気づきました。

あとひとつ印象的なのが、「正解」がない怖さに、どう立ち向かうのか、という点です。いま企業では、企業内イントレプレナーというような形で、事業提案を求められる機会が増えているんじゃないかと思います。けれども、私自身もそうなのですが、企業で働く人の多くは、世の中のことを勉強したり、決まったことを決まったようにやったり、ということはある程度得意なのですが、正解のないことを考え抜くのは苦手だなと感じています。そして、正しいかどうか分からないことを発表する、実行する、というのは、やっぱり怖いですよね。だからわたしは今回の研修で、「ディベロッパー」としての自分に拘って、少しでも安心できる場所から提言をしたんだと思います。けどそれは、結果として、相手への想像力が足りない答えでした。今回のプログラムは、正解のないことへの取組みという意味でもいい経験になりました」

自己実現を超えた、仕事の「意味」

―プログラム後、普段の仕事での意識に変化などはありましたか。

「今は再開発の仕事に携わっていて、多様な関係者の方がいらっしゃるのですが、まずは相手が求めているものを理解しよう、という気持ちになりました。最終提案へのリアクションはショックだったのですが、立ち直りは早いので(笑)、普段の仕事に活かしています。話がまとまらないとき、これまでは自分本位で話を通そうと躍起になっていた面があると思います。『この部分のロジックが弱かったのかな?』と論拠を足すなど、相手を説得するための論理を組み立てていたのですが、見当はずれの場所で戦っていたんじゃないかと思うようになりました。まちや不動産に関わる仕事をしていると、様々な想いを持った方と出会います。その想いには、必ずしも合理的な答えがあるわけではありません。そういった方たちが、どんな想いを持っているんだろうと考えていると、ふと、プログラムで出会った一癖ある方たちが思い出されるんですよね(笑)」

最終提案が終わった後のアンケート。「プログラムの約3月間を振り返り、感じたこと、考えたことを自由にお書きください。」という項目に、野口さんからはこんな答えが返ってきた。
「仕事は自己実現に重きを置いていたが、社会をよりよくすることを真剣に考えているリディラバや参加者、越後妻有の方々の考え方に触れたことは有益だった。もっと広い視野で、どんな世界で生きていきたいかまで考えることができると、仕事もより楽しく、より意味のあるものになる気がした。」

―アンケートの答え、すごく印象的でした。野口さんは今後、どんな仕事をしていきたいですか。

「私、「みなとみらい」という街が大好きで。いつ行っても、誰が行っても、ワクワクするものを提供し続けていて、それは生活の支え、生きる支えにもなりうると思っています。就活の時は、『東京にみなとみらいのような街を作りたい』と連呼していました(笑)。その気持ちはいまも変わらないんですが、社会人になって気付いたのは、人はいつも頑張り続けられるわけではないということです。大学生までは、頑張れば何でもできると思っていたんですが、決してそんなことはないんだなって。体調だってあるし、その時々の気持ちだってある。そんな時に、自分が関わったまちづくりを通して、ほっと一息つけるような癒しも提供できたらと思うようになりました。

今回の研修では、喜んでもらいたい人が目の前にいたから、やりがいを持って取組むことが出来ました。まちづくりの仕事は、10年、20年かかるものも多く、遠い将来、まちに来てくれた人がどんな風に喜んでくれるのかを想像するのがとても難しいです。けれども、今回の経験は、そんな想像力を持つヒントをくれたと思いますし、自分本位ではない、まちに来てくれる人に寄り添った想像力を持つ大切さを教えてくれた気がします。」